国土交通省社会資本整備審議会道路部会が「道路の老朽化対策の本格的実施に関する提言」を発表したのは平成26年4月14日でした。この提言は「1.最後の警告―今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ」という衝撃的なタイトルから始まっています。そしてここで次のように警告したのです。
「平成14年以降、当審議会は『今後適切な投資を行い、修繕を行わなければ近い将来大きな負担が生じる』と繰り返し警告してきた。(中略)しかし、デフレが進行する社会情勢や財政事情を反映して、その後の社会の動きはこの警告に逆行するものとなっている。(中略)社会全体がインフラのメンテナンスに関心を示さないまま時間が過ぎていった。国民も管理責任のある地方自治体の長も、まだ橋はこのままである、と思っているのだろうか。(中略)
今や危機のレベルは高進し、危険水準に達している。ある日突然、橋が落ち、犠牲者が発生し、経済社会が大きな打撃を受ける・・、そのような事態はいつ起こっても不思議ではないのである。我々は再度、より厳しい言い方で申し上げたい。『今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切らなければ、近い将来、橋梁の崩落など人命や社会システムに関わる致命的な事態を招くであろう』と。」
そして目指すべき方向性や具体的取り組み案を提案しています。
今から12年前、どれだけの人がこの「警告」を深刻に受け止めたかは疑問です。もちろん道路行政にかかわる人たちは強い衝撃を受けたことと思います。ちなみに当社の社員に、この言葉を聞いたことがあるか聞いたところ、全員が「聞いたことがない」という答えでした。しかし、この提言そのものは知らなくても、提言の結果は知っているはずです。
この「最後の警告」は、平成24年12月に起きた中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故を大きな契機として出されました。走行中の車3台が落下した天井板の下敷きになり、9名が死亡、2名が重軽傷を負った痛ましい事故でした。
事故の原因は天井板の設計とともに、老朽化と点検の不十分さがあげられました。事故後、全国の道路トンネルから天井板はすべて撤去されました。
そして「最後の警告」を受け、道路トンネル、道路橋の点検を5年に一度行い、ランク分けし対策を行うことが義務づけられました。スクラップアンドビルド(古くなったものは取り壊し、新たに作る)のではなく、予防保全していく考え方に変わったのです。その結果、私たちの業界でも、点検業務が大きな比重を占めるようになってきました。曲がりなりにも道路、橋梁はメンテナンスに舵を切ったのです。
そんな中で起きたのか埼玉県八潮市での下水道管の漏水による道路陥没事故です。令和7年1月28日に起きた大規模な道路の陥没により、走行中のトラックが巻き込まれ、運転手が死亡、周辺120万人に下水道の使用の自粛が求められるという大事故でした。亡くなった運転手は大口径の下水管に入ってしまい、発見までの相当の日数がかかりました。この事故を受けて大規模な下水道管の緊急点検が行われたのは記憶に新しいところです。
事故の原因は下水管の中で発生した硫化水素によって下水道管が腐食したため、とされています。腐食した部分から下水道管周辺の土砂が管内に流入し、空洞が拡大し道路陥没につながりました。腐食が発生した場所は硫化水素が滞留しやすい構造であり、作られてから42年が経過しています。これもまた老朽化でした。ことは道路だけにとどまらなかったのです。
形のあるものは必ずいつか壊れます。壊れるということを前提として作っています。下水道管は耐用年数を50年と想定しています。もちろん材質や環境によってその寿命は大きく変わります。八潮市の事故で腐食した鉄筋コンクリート管は、硫化水素による腐食が起こりやすい材質です。
道路やトンネルの耐用年数も以前は50年とされていましたが、現在は設計供用機間を100年と設定しています。これは100年使えるように設計するということですが、「適切な維持管理が行われる」ということを前提にしています。したがって、橋にしろ下水道にしろ50年が近づけば補修が必要になることはわかっていたはずです。しかし、実際には笹子トンネルや八潮市の事故が起こるまでは、手付かずとは言わないまでも十分な管理が行われていませんでした。
これは「自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価する」といういわゆる「正常性バイアス」が影響していると考えられます。行政を弁護するわけではありませんが、こうした心理は誰にでもあります。
「まあ、大丈夫じゃないの」とか「何かあったら考えればいいんじゃない」という大雑把さやいい加減さも、時と場合によっては良いことですが、人命にかかわったり、社会に甚大な影響がある場合にはこれでは困ります。
「最後の警告」で示された、わが国の社会資本の行方をどのように考えればいいのか、次回に続きます。