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地震と活断層について(5)津波と地震への備え

2021年12月17日

 下の図は、東京大学地震研究所による、三陸沿岸での明治三陸津波(黒丸●)、昭和三陸津波(黒星★)、東日本大震災津波(白丸○)の津波浸水高を比較したデータです。今回の津波が、前二回の三陸津波よりもはるかに高かったことが一目瞭然です。

 東日本大震災の津波は、岩手県野田村米田から宮古市重茂半島の千鶏までの約60kmの海岸線で高さが30mを越えています。明治三陸津波で30mを越えたのは、大船渡市綾里と陸前高田市集の2箇所のみで、昭和三陸津波では30mを超えた地点はありません。

 津波がどういうものかについては、震災後の報道で広く知られてきていますが、改めてまとめてみます。

 津波とは海面が高くなり陸地に大量に流れ込む現象です。波といっても、池に石を投げこんでできる波とは違います。その最大の特徴は、波長が極めて長く、はるか沖合まで一つの波が続いていることです。つまり押し波で破壊された後に、引き波で家や船が沖まで流されていくまでが一回の波ということになります。

 津波の原因は、海域で起きる地震だけでなく、陸地から海への崩落や海底地すべり、海底火山の爆発、海への天体の落下などがあげられますが、地震による海底面の上下運動が一般的です。断層運動が比較的浅い海底下で起こると、海底の上下運動がそのまま海水面の上下変動として現れます。海底が下がった場所から来る津波が最初に来る場所では海水が引き始め、海底が上がった場所からの津波が最初に来る場所では海面の上昇(押し波)から始まります。

 津波が伝わる速さは海の深さの平方根に比例するそうです(このへんは難しくてよくわかりません)。水深4,000mの海では時速約700Km、水深1,000mでは時速約350Km、水深40mでは秒速20mとなります。秒速20mといっても時速70kmなので相当な速さです。とても走って逃げられる速さではありません。

 ところでこの水深による速さの差が津波の高さに影響します。津波は海岸に近づくと遅くなりますが、一方で沖の津波は減速していないので、後ろから押されて高くなるという結果になります。水深4,000mで高さ1mの津波は、海岸(水深0m)では高さ5mになると計算されるそうです。

 これに海岸近くでの波の屈折と集中の現象、海底地形の影響などにより、場所によって津波の浸水高、遡上高が変化します。一般的には三陸のリアス式海岸で、湾の奥が狭くなる地形では非常に高くまで遡上すると言われています。また、仙台平野のような海岸平野では、津波の高さは比較的低いものの、陸地の奥深くまで流れ込むという特徴があります。

 しかしこうした一般的な津波の特徴からすべて説明できるわけではありません。最初にあげた津波のデータから、宮古市から野田村までの地点で浸水高が極めて高いことがわかっていますが、この区間はリアス式海岸ではなく隆起海岸です。また、震源域(最初に断層運動が始まった地点)や最も隆起量が大きいコア領域も、宮城県沖の海溝寄りの地点です。なぜこの領域に近い宮古以南のリアス海岸地域より遠い宮古以北の隆起海岸地域の方で浸水高が高い地点が多いのか、疑問が残ります。地震に伴う海底地すべりの可能性も指摘されています。

 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は、(1)でも書いたように、気象庁も地震研究推進本部も想定外であったと述べています。地震がいつ、どこで、どのような規模で発生するかを予知することは、遠い将来は可能かもしれませんが、当分の間は無理と考えるよりありません。したがって私たちにできることは、とにかく自分たちの身を守るように準備をしておくことです。

 気象庁では「地震から身を守る具体例」として次の行動を進めています。

家具を固定しましょう。また、万一倒れてきた場合でも通路をふさがないような配置を考えましょう。

②室内になるべく物を置かない「安全スペース」(物が落ちてこない、倒れてこない、移動しない空間)を作っておきましょう。

③地震が発生した時の連絡手段や集合場所について、あらかじめ家庭で話しあっておきましょう

④非常時の水、食料品の備蓄、非常時の持ち出し品を準備しておきましょう。

⑤普段通る道に危険な場所や物がないか、周囲の状況を確認しておきましょう。

 また、1981年以前に建築された家は、新しい耐震基準を満たしていない可能性があるので、自宅を耐震強化しておくことも重要です。津波に対しては、強い地震があった時は「とにかく早く高台に逃げる」ということに尽きます。

 こうしたことは繰り返し言われていますが、とにかく「命を守る」ことを最優先することが大切だと痛感します。