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ダムと地質調査(6)ボーリング調査の実際

2021年04月14日

 大型のダムは一般的に山の中に建設するので、当然ですが作業も山のなかです。また調査は工事の前に行いますから、工事用道路もなくトラックも入れない場所が調査地点になるのが普通です。

 ボーリング調査の資機材は鉄製のものが多く「重い!」です。ボーリングの深度は様々ですが、ダムサイトでは深い場合100m~200m程度掘削します。ボーリングマシンは深度に合わせて選択し、650Kgから850Kgの重量のものを使用するのが一般的です。そのほかに、ボーリングロッド(掘削用のパイプ)が1本約13Kg、保孔用のケーシングパイプが1本15~25Kgくらい。さらに給水用ポンプ、掘削用ポンプ、コア採取用のツールス、ツールスの昇降器具、孔内試験用の機器、こうしたものを山のように現地に持ち込みます。

 これらの資機材はキャタピラ付きの運搬車やモノレールを架設して運び込みます。深い川を渡る場合は索道(小型のケーブルクレーン)、運搬距離が長い場合はヘリコプターをチャーターして運ぶこともあります。場所によってはこれらの運搬方法を組み合わせて搬入します。  

 調査地点は斜面が多く、そのままでは作業できません。足場パイプで平坦な作業ステージを組み立て、そこに資機材を小分けして運搬します。ボーリングマシンは100Kg~200Kg程度に分解して運搬し、ステージの上で再度組み立てます。昔は100Kg程度の部材を2人がかりで担いで運んだりもしたのですが、腰を痛めるので、今ではそんなことはしません。(しかし、今でも「建設物価」の地質調査単価表の中に「人肩運搬」という項目があります。しかも単位がtです。何を考えているんだか・・・)

           ダムのボーリング作業現場

 そんなこんなで資機材を運び込み、組み立ててから掘削となります。コアボーリングは鋼製のチューブの先端にダイヤモンドビットを装着し、2~3mごとに掘削していきます。ボーリングコアは地層を解析するための第一の資料であり、もっとも大事な成果品です。したがって、コアは100%採取することが原則です。ところがこの「100%コアを採取する」ことはそう容易なことではないのです。

 コアボーリングは水あるいは水に添加剤を加えた泥水で掘削します。水がなければ掘削した掘りかす(のこぎりで木を切った時のおがくずをイメージすればいいです)が溜まり、掘削できないだけでなく、回転による摩擦熱で岩石が焼けてしまい、ボロボロになってしまいます。

 掘削水は必要不可欠なものですが、硬い岩盤の中に砂や粘土状に風化した部分があると、掘削水の圧力で容易に破壊され、その部分を流失してしまいます。これを避けるため、掘削水量を調整したり、添加剤で泥水の粘性(ねばりけ)をあげたり、先端のダイヤビットを特殊なものにしたりと、様々に工夫します。この岩質に合わせた最も適切なツールスの選択、掘削水の調整がボーリングオペレーターにとって最も難しいところであり、また腕の見せ所でもあります。

 

  コアチューブから取り出したボーリングコア

         深度に合わせボーリングコアを整理する

 ボーリングでは常に新鮮な硬い岩盤ばかりを掘るわけではなく、風化したり破砕したぼろぼろの岩盤もあり、孔内で崩壊する場合があります。特に断層破砕帯や地すべりの移動土隗では、こうした区間が長く続くことがあります。孔内で崩壊が起きると、掘削ツールスがボーリング孔内で抑留され、引き上げることができなくなるだけでなく、無理やり引き上げても元の深度まで到達できません。さらにこれを放置すると、崩壊により掘削水の水圧が上昇し、さらなる崩壊を招きます。

 こうした崩壊を防ぎ掘削を順調に進めるために、ケーシングパイプと呼ばれる掘削孔径より一回り大きなパイプを崩壊部まで挿入します。また、崩壊位置が深くケーシングパイプを入れるのが困難な場合は、セメントミルクを孔内に注入し硬化させ、周囲の岩盤まで固めてから掘削する、ということも行います。これらの作業を保孔作業と言います。

 しかし、崩壊箇所が多かったり、崩壊区間が長かったりするとこの作業も容易ではありません。ケーシング自体が崩壊する岩盤に締め付けられ動かなくなる場合があるからです。そうすると、さらに一回り大きい径のケーシングを挿入し、内のケーシングを締め付けられないようにしてから深い深度まで入れます。こうしたことを繰り返し、場合によっては3段から4段ケーシングを入れることさえあります。

 こうした掘削作業とは別のもう一つの難問が積雪です。東北の山奥で雪が消えるのは早くても5月連休明け、標高の高い豪雪地帯では7月上旬まで雪が残っています。そして11月下旬から12月には根雪になってしまいます。つまり実際に作業可能なのは6月から11月までの半年間しかないのです。雪が降りだす前に掘削を終了し、資機材を現場から出してしまおうと必死になります。

 積雪前に終わらずに年を越してしまうと、毎日雪かきです。作業地点に行くために雪かきばかりしていて、とうとう春になってしまったという悲惨な現場もあったなあ・・。大雪になり、車のあるところまで歩いて戻っても、車が動かせず、夕方心配した宿の親父さんが迎えに来てくれたこともありました。このようにダムのボーリング調査は平野部での一般調査とは違った難しさがあります。

 苦労話ばかり書きましたが、こうして苦労した現場をやり終えたときの充実感は何物にも代えがたいものです。また、こうした現場で技術を磨き、伝承することで現在の当社のボーリング技術が出来上がってきたのです。

 長々とダムと地質調査について書きました。ダムは大変に大きな土木事業であり、治水、利水、エネルギー、環境など様々な分野にかかわっています。そのため関連する分野も含め、まだまだ知っておきたいこと、また伝えたいことがあります。今はインターネットで様々な情報を容易に得ることができます。ダムについてのおすすめは、一般社団法人日本ダム協会が運営する「ダム便覧」です。今回も参考にさせてもらいました。

 国土交通省その他の管理するダムでは「ダムカード」を作成して、訪問した人に配布しています。ダムマニアの方は「ダムカードをGETする旅」を楽しんでいるようです。機会があれば「ダムカード」をもらってみてはいかがでしょうか(ダムカードにもレアカードがあるらしいです)。