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地震と活断層について(7)活断層による地形例

2022年02月14日

 このシリーズの最後になりますが、活断層をどう地形から読み解くのかについて述べます。マニアックな話題で恐縮なのですが、私(代表熊谷です)は、地図好きが高じて地形判読をやるようになってしまい、この話題は避けて通れません(すみません)。ここでは地形から活断層を読み取る例を二つ取り上げます。

 最初に紹介するのは、岐阜県中津川市坂下町にある阿寺断層の地形です。ここは地震・活断層研究では大変に有名な場所で、断層による変位地形の典型例として取り上げられます。

            岐阜県中津川市坂下町の地形図

 坂下駅周辺には木曽川の河岸段丘が発達し、4つの段丘面があります。坂下駅を出発した中央本線は、駅からおよそ300mで比高10mほどの崖にぶつかり、そのままトンネルに入ります。この崖は北西-南東方向に連続し、坂下の町を横断し、さらに木曽川を越えて対岸に続いています。

 木曽川に最も近い低位段丘面ではこの崖の高さは2~3mですが、下から2段目の坂下面では10m程度になり、この面の下をトンネルが通っています。3段目、4段目と比高は高くなり、最も高い(最も古い)松源地面では16.5mの高さになります。それぞれの段丘面、段丘崖、断層崖が交差し、坂下の町は坂だらけです。坂下という地名もうなずけます。

 地形図では市街化によってわかりづらいので、同じ場所の陰影起伏図と段丘区分図を下に掲載します。区分図に整理された地形を見ると、同じ段丘面が断層線をはさんで北東側が隆起し、また左横ずれを起こしていることが見て取れます。また、高い段丘面(古い面)ほどその差が大きく、古い時代から活動が継続し、食い違いの変位が累積していることがわかります。

            上の地形図の陰影起伏図

            坂下駅周辺の段丘区分と阿寺断層

 次の図は宮城県白石市越河地区の地形図です。ここは東北自動車道で国見ICから下ってくると左側に田んぼが広がる小さな盆地としてよく見えます。さらに下ると再び山に入り、やがて白石盆地に出ます。

             宮城県白石市越河地区の地形図

 地形図で見ると、白石市西部の鉢森山から雨塚山に続く西側の山地は標高550m程度の定高性をもっており、その東側は急斜面となっています。また、東北本線や国道4号線が走る山麓はややカーブしながらも直線状です。一方南東側の山地は開析が進んだ丘陵状で、山麓線は入り組んでおり、小さな島状の孤立丘があり、堆積盆地であることは明らかです。この東西の山地の形成過程が異なっていることは明瞭です。

 この西側山地と越河盆地の境には福島盆地西縁断層に続く越河断層があります。西側の山地は越河断層の動きによって隆起した山地であり、盆地内を流れる斎川はこの隆起によって断ち切られ、かつては湖になっていたと考えられます。そこに両側の山からの土砂が堆積し盆地が形成されました。東側山地は隆起しなかったため、盆地の形成によって埋積され、出入りの多い山麓線になったものです。

 このように断層の変位によって形成された盆地を断層角盆地と呼びます。越河盆地は、逆断層で作られた断層角盆地のひとつの典型例といえるでしょう。

 地形を知ることは防災・減災のための基礎です。それは地震に限らず、河川災害、土砂災害においても同じです。以前も同じことを書きましたが、ハザードマップを理解し、どこにどのような災害の危険性があるのかを深く知るためには地形の理解が欠かせません。

 蛇足になりますが、地図を読むのは、本当に面白いことです。「この地形図上のどこに活断層があるか探せ」というような問題は、少々ルールが特殊なゲームのようなものです。地図、地形図の楽しみを知ってもらえればうれしいです。(変なやつ、とも言われますが・・)


地震と活断層について(6)断層と地質調査

2022年01月20日

 断層に関連する地質調査は、大きく二つに分けられます。

①土木工事に関連して断層を調査する場合。

②活断層そのものを調査する場合。

 活動していない古い断層であっても、土木工事においては警戒しなければならない危険な要素になることが多いです。例えばダムを作る場合、断層の角度、傾斜によっては、ダム自身の巨大な荷重によって滑動する危険があります。また盛土、切土を伴う道路工事などでも、荷重の変化によって断層面に沿って崩壊する危険があります。

 断層面は一般的に粘土化しているので、水を通さない不透水層になります。そのため断層の両側で地下水位が違うことがよくあります。トンネル工事で断層を突破したときに、突発湧水が起きるのは、水位が高い方から低い方へ水が移動するからです。映画「黒部の太陽」で、大湧水の場面があるのはこのためです。

 このように古い断層は、活断層のように変位を起こすわけではありませんが、土木工事において大変危険な要素であり、地質調査でも十分注意しなければなりません。

 次に活断層そのものを調査する場合についてです。

 阪神大震災後、政府地震調査研究本部が作られ、日本全国で活断層調査が行われました。これはそれぞれの活断層の位置、長さ、活動履歴、活動頻度、変位量を調べ今後の活動予測、危険性を評価しようというものでした。その結果は各断層、断層帯ごとにまとめられ公表されています。

 活断層調査の流れは概ね以下のようになります。

①地形図と空中写真判読

 いつも出てくる予備調査の項目ですが、断層調査では特に重要な意味を持ちます。まず地形図から直線状の河谷とそれをつなぐ峠や鞍部などに注目します。これはリニアメントと呼ばれる地形構造です。この直線構造の中、あるいはその付近に活断層による地形の変位を示す地形があると、活断層の可能性が高いと判断されます。そして、空中写真の立体視で変位を確認します。これを変動地形学的手法と呼びます。

 変動を示す地形には、三角末端面、低断層崖、並行する河川の同じ方向への屈曲(オフセット)、地溝と断層盆地の形成、風隙など様々なものがあります。熟練した地形判読技術者はこうした地形から活断層による変位の程度、歴史を読み取ることができます。

 この活断層の地形判読については次回に述べます。

②地表踏査

 地表踏査では、露頭を観察して、岩石の種類、風化の程度、地層の走行・傾斜を調べていきます。通常の地表踏査は、これらの連続性に注目しますが、活断層調査では不連続性に注目すると言っていいでしょう。①であげた地形の変位と考えられる場所を、現地で確認していく作業となります。

③ボーリングおよびトレンチ掘削

 ボーリング調査は、採取したボーリングコアによって断層面、破砕帯を直接目で見て確認できる方法ですが、あくまで点で捕まえるため、断層の位置、走行・傾斜をある程度正確につかんでおかないと空振りに終わる場合があります。そこで行われるのが群列ボーリングという手法です。想定される断層線を横断して、数本のボーリングを行い、地層のずれを探し、ずれの大きい付近に断層があると想定します。これは比較的新しいほぼ水平な堆積層がある場合には大変有効です。

 断層本体をボーリングコアで確認するためには、斜めボーリングを一般的に用います。断層が傾斜しているので、それに直交するように掘削すると、断層面にぶつかる可能性が高いからです。

 こうして断層の位置を確定し、最後にトレンチを掘削して人の目で断層の状態を確認します。下の写真を見るとわかるとおり、トレンチの断面では堆積層の変位の様子がはっきりとわかります。

 地層中にある炭化物の放射性年代測定(一般的にはC14法をもちいます)をすると、各地層が堆積した年代がわかります。そこから変位を起こした年代、頻度等を推定します。

           産業総合研究所によるトレンチ調査

④地震波探査

 ①~③の調査方法では地表付近の情報しか得られず、地下深部まで続く活断層の位置はわかりません。そこで用いられるのが反射法地震探査です。これは地震波が地下の地層境界で反射して戻ってくることを利用して地下深部の構造を調べる方法です。

 地震波は海上では曳航するエアガンにより、地上ではバイブロサイス車と呼ばれる起震装置で発生させます。この方法は地下数千メートルまでの地層の変位を調べることが可能です。

         反射法地震探査による長町利府断層の想定断面図(地震研究推進本部より)

 こうした様々な調査方法による結果を総合して、活断層の評価を行います。これは産業総合研究所や大学などの各研究機関による学術的研究調査だけでなく、電力各社による産業目的の調査(最も多いのが、原子力発電所周辺の活断層調査でしょう)も、調査の手法は全く変わりありません。

 

 政府地震研究推進本部のホームページには、各断層・断層帯の評価が掲載されています。例えば宮城県にある長町―利府断層帯について次のように記載されています。

1.位置・形状:長さ21km~40km 一般走行N40°E

  ずれの方向と種類:北西側隆起の逆断層

2.過去の活動

 ・平均的なずれの速度:0.5~0.7m/千年(上下成分) (いわゆるB級断層)

 ・過去の活動時期:最新活動―約1万6千年より前 一つ前の活動―不明

 ・1回のずれ:2m程度以上

 ・平均的活動間隔:3千年程度以上

 ・断層帯全体が活動した場合、M7.0~7.5程度の地震が発生する可能性がある。

 概略ですがこうした内容が記載されています。この評価は、ここまで述べてきた様々な手法による調査の結果を総合して得られたものです。


令和4年 明けましておめでとうございます

2022年01月08日

 明けましておめでとうございます。令和になって3度目の新年を迎えました。昨年のクリスマス以降、断続的にやってくる寒波で本当に寒い年末年始となりました。

 この3年、毎年同じようなことを書いていますが、年明け早々新型コロナの流行が第六波を迎えたと言われています。オミクロン株の感染力が強いせいなのでしょうか、年明けからあっという間に感染者が激増しています。新型コロナ禍が始まって以来、幸いなことに社員、協力会社に感染者は出ていませんが、軽症とはいえ家族の中で感染した人がいました。

 昨年末にはだいぶ感染者数が少なくなり、宮城県内の感染者数はゼロの日続き、年末には安全会議、年頭には二柱神社の神職を迎えての安全祈願祭を再開したばかりでした。また、みんなが集まっての行事は難しくなるかもしれません。

 こうした行事は難しくなっても、何よりも無事故無災害で今年一年仕事を続けていけられるように、社員、協力会社一同頑張っていきたいと思っています。

               事務所での安全祈願祭


地震と活断層について(5)津波と地震への備え

2021年12月17日

 下の図は、東京大学地震研究所による、三陸沿岸での明治三陸津波(黒丸●)、昭和三陸津波(黒星★)、東日本大震災津波(白丸○)の津波浸水高を比較したデータです。今回の津波が、前二回の三陸津波よりもはるかに高かったことが一目瞭然です。

 東日本大震災の津波は、岩手県野田村米田から宮古市重茂半島の千鶏までの約60kmの海岸線で高さが30mを越えています。明治三陸津波で30mを越えたのは、大船渡市綾里と陸前高田市集の2箇所のみで、昭和三陸津波では30mを超えた地点はありません。

 津波がどういうものかについては、震災後の報道で広く知られてきていますが、改めてまとめてみます。

 津波とは海面が高くなり陸地に大量に流れ込む現象です。波といっても、池に石を投げこんでできる波とは違います。その最大の特徴は、波長が極めて長く、はるか沖合まで一つの波が続いていることです。つまり押し波で破壊された後に、引き波で家や船が沖まで流されていくまでが一回の波ということになります。

 津波の原因は、海域で起きる地震だけでなく、陸地から海への崩落や海底地すべり、海底火山の爆発、海への天体の落下などがあげられますが、地震による海底面の上下運動が一般的です。断層運動が比較的浅い海底下で起こると、海底の上下運動がそのまま海水面の上下変動として現れます。海底が下がった場所から来る津波が最初に来る場所では海水が引き始め、海底が上がった場所からの津波が最初に来る場所では海面の上昇(押し波)から始まります。

 津波が伝わる速さは海の深さの平方根に比例するそうです(このへんは難しくてよくわかりません)。水深4,000mの海では時速約700Km、水深1,000mでは時速約350Km、水深40mでは秒速20mとなります。秒速20mといっても時速70kmなので相当な速さです。とても走って逃げられる速さではありません。

 ところでこの水深による速さの差が津波の高さに影響します。津波は海岸に近づくと遅くなりますが、一方で沖の津波は減速していないので、後ろから押されて高くなるという結果になります。水深4,000mで高さ1mの津波は、海岸(水深0m)では高さ5mになると計算されるそうです。

 これに海岸近くでの波の屈折と集中の現象、海底地形の影響などにより、場所によって津波の浸水高、遡上高が変化します。一般的には三陸のリアス式海岸で、湾の奥が狭くなる地形では非常に高くまで遡上すると言われています。また、仙台平野のような海岸平野では、津波の高さは比較的低いものの、陸地の奥深くまで流れ込むという特徴があります。

 しかしこうした一般的な津波の特徴からすべて説明できるわけではありません。最初にあげた津波のデータから、宮古市から野田村までの地点で浸水高が極めて高いことがわかっていますが、この区間はリアス式海岸ではなく隆起海岸です。また、震源域(最初に断層運動が始まった地点)や最も隆起量が大きいコア領域も、宮城県沖の海溝寄りの地点です。なぜこの領域に近い宮古以南のリアス海岸地域より遠い宮古以北の隆起海岸地域の方で浸水高が高い地点が多いのか、疑問が残ります。地震に伴う海底地すべりの可能性も指摘されています。

 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は、(1)でも書いたように、気象庁も地震研究推進本部も想定外であったと述べています。地震がいつ、どこで、どのような規模で発生するかを予知することは、遠い将来は可能かもしれませんが、当分の間は無理と考えるよりありません。したがって私たちにできることは、とにかく自分たちの身を守るように準備をしておくことです。

 気象庁では「地震から身を守る具体例」として次の行動を進めています。

家具を固定しましょう。また、万一倒れてきた場合でも通路をふさがないような配置を考えましょう。

②室内になるべく物を置かない「安全スペース」(物が落ちてこない、倒れてこない、移動しない空間)を作っておきましょう。

③地震が発生した時の連絡手段や集合場所について、あらかじめ家庭で話しあっておきましょう

④非常時の水、食料品の備蓄、非常時の持ち出し品を準備しておきましょう。

⑤普段通る道に危険な場所や物がないか、周囲の状況を確認しておきましょう。

 また、1981年以前に建築された家は、新しい耐震基準を満たしていない可能性があるので、自宅を耐震強化しておくことも重要です。津波に対しては、強い地震があった時は「とにかく早く高台に逃げる」ということに尽きます。

 こうしたことは繰り返し言われていますが、とにかく「命を守る」ことを最優先することが大切だと痛感します。


地震と活断層について(4)内陸型地震(その2)

2021年11月24日

 プレート境界型地震も内陸型地震も、プレートの運動によって地殻にひずみが蓄積し限界を超えたときに、岩盤が断層面にそって破壊されて発生します。この破壊が繰り返し起こっている断層を【活断層】と呼びます。活断層の規定は研究者によって違いますが、「新編・日本の活断層」では、新生代第四紀(約258万年前~現在)に動いたとみられ、これからも活動する可能性のある断層を活断層と規定しています。

 内陸地震はプレート境界型地震と無関係に発生しているわけではなく、一定の関係をもって起きているようです。歴史的資料が多い西日本の記録から、南海トラフ大型地震と内陸地震には関連があり、内陸地震には活動期と静穏期があるらしく、現在は次の南海トラフ地震に向けた活動期にある、とみられています。しかし、この関係についてはまだよくわかっていないというのが現状です。

 内陸型地震の発生メカニズムは、相当に複雑だと考えられています。下図は、日本内陸部の活断層分布図です。これを見ると、日本は活断層だらけなのですが、その分布には偏りがあり、北海道・東北地方より、中部地方から近畿地方に多いことがわかります。特に伊勢湾-若狭湾-大阪湾を結ぶ近畿三角地帯と呼ばれる地域に集中しています。

 この地域には根尾谷断層や跡津川断層、養老―桑名―四日市断層帯など、活動度A級(1,000年に1~10mの変位を起こす活断層)の大関・横綱級の活断層が目白押しです。

 ところで、この地域には火山が分布していません。白山から鳥取県の三瓶山までの区域を火山の空白地帯と呼びますが、この区域が重なっていることは偶然ではありません。これはフィリピン海プレートが低角で沈み込んでいることと関係していると考えられています。つまり、沈み込んだプレートが部分融解する温度と圧力にならないためマグマが供給されず、地殻が比較的低温になっているということです。

火山に近い場所はマグマの貫入により地殻上部も比較的高温になります。高温の岩石は低温の岩石に比べてゆっくりと変形を起こすことができるため、地震のように一気にバリバリと壊れずに、ひずみを解消することができます。したがって、火山の空白域である近畿地方の地殻は低温で地震発生層が厚く、大きな内陸型地震を起こしやすいと考えられています。

 これ以外にも、地下深部のプレートの動き、プレートから供給される水の働きの違いなどにより、各地域での地震の特徴の違いが生まれているといわれています。まだまだ分かっていないことがたくさんありますが、それは何よりも、内陸地震の活動間隔の長さによっています。プレート境界型地震が数十年から数百年間隔で繰り返すのに比べ、内陸型地震は数千年から数万年間隔で発生します。はじめにとりあげた北伊豆地震も、再び活動するのは千数百年後と予想されています。また、まだ知られていない活断層もあるはずです。個々の活断層がどのような特徴をもって再び活動するのか私たちは知らないのです。

 補足になりますが、前回新潟県中越沖地震について、海底下にあっても内陸地震を起こす断層に分類される、と書きましたが、逆に内陸にあってもプレート境界型に分類される活断層があります。具体的には静岡県にある神縄―国府津―松田断層帯と富士川断層帯です。

 伊豆半島はフィリピン海プレート上にあり、この二つの断層帯は陸側プレートとフィリピン海プレートの境界です。神縄―国府津―松田断層帯は相模トラフの延長であり、富士川断層帯は駿河トラフ―南海トラフの延長に相当しています。それぞれのトラフでのプレート境界型地震が発生するときに(毎回ではないが)連動して活動すると考えられています。