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地質調査という業種の特徴(1)参入障壁

2022年05月11日

 昨年末、前澤友作さんが民間の日本人として初めて国際宇宙ステーションに滞在し、無事帰還したことが大きな話題となりました。宇宙ステーションの生活が紹介され、これまでの科学者による滞在よりも、ぐっと身近に感じられました。

 この宇宙旅行の費用は、同行する社員の分も含め約100億円だそうです。さすが、アパレル通販サイトZOZOTOWNの社長として大成功を収めたお金持ちですね。ちなみに、2021年フォーブス誌によると、前澤さんの純資産額は約19億ドル、日本円にして2,147億円(1ドル113円として)だそうです。

 ZOZOTOWNの成功は、前澤さんの経営戦略とアイデアの成功と言っていいものです。そもそもネット通販でのアパレルモデルは難しいと言われていました。大体私たちは服を買うときには試着をして決めます。靴も同じですが、メーカーによってサイズは少しずつ違うため、注文してみて合わなかったということがよくあります。なので、ネットでカタログを見て注文するよりも店頭で試着して買う方が安心です。

 前澤さんのアイデアは、実際に着てみてあわなかったら返品可としたこと、自社に在庫を置かず加盟するショップからの委託販売にして、受託手数料を取るという点にあったそうです。さらに、採寸のためのZOZOスーツを配布するという画期的な手法も展開しています。

 前澤さんは発想が豊かで、決断力のある優秀な方だと思います。こうしたアイデアも、成功した後からは「なるほどうまい考えだ」と思いますが、その前は「本当にうまくいくかいな?」と感じられますよね。

 さまざまな業種には、新たに事業を始めやすいものと、始めにくいものがあります。この事業への入りやすさを「参入障壁」と呼びます。始めやすい業種は参入障壁が低い、始めにくいものは参入障壁が高いと言います。

 参入障壁が低い業種としては、外食産業がよく上げられますが、IT業界や物販業界も特にインターネット、Webサイトの普及により参入しやすくなったと言われています。要は、初期投資額が少なく、アイデアと能力次第で事業を起こしやすい仕事です。アパレル業界も関連の製造インフラが整っているので、ある程度の資金があれば自社製品を作るのは容易だそうです。

 前澤社長の事業も、アパレルと物販の組み合わせなので比較的容易に始められます。しかし、容易に始められる参入障壁の低い事業は、当然ですが、他にも参入する人が多く、競争が激しくなり、誰でも成功できるわけではありません。こういう血で血を洗うような競争の激しい市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」と呼ぶそうです。レッド・オーシャンを泳ぎ切って成功をおさめ、莫大な資産をえるために前澤さんは、さまざまな画期的なアイデア、手法を取りました。

 さて、なぜこんな話を長々と述べたかというと、では、われわれ地質調査業界、ボーリング業界はどうかということを考えてみたいからです。

 ボーリングだけでなく、建設業、建設関連業は相当に参入障壁が高い業界です。なぜか?

①国や地方自治体の競争入札には参加資格が必要で、その条件に施工実績、業務実績が求められます。

②業務価格には発注者(国や自治体)の基準があり、その枠内に収めなければなりません。また、民間の業務もそれに準じた価格があります(建設物価)。商品の品質(技術力)がよくても、基準の価格以上の金額で売ることが難しい、つまりあまりもうからない。

③技術者の養成に時間がかかる。ボーリング技術者もそうですが、設計、調査の技術者も、まず独り立ちできるまで5年、一人前になるまで10年かかると考えて間違いありません。

 地質調査も建設コンサルタントも扱う商品は技術です。解析ソフトや設計ソフトも新たに開発されてきていますが、その背景にある考え方を理解していないと扱えません。また、対象になる素材=それぞれの現場は同じように見えても、ひとつひとつ違います。多くの現場を経験しないと、一人前の技術者として業務をこなしていけないのです。