TEL 022-372-7656

北上川についていろいろ(3)カスリーン・アイオン台風その後

2020年09月05日

 カスリーン・アイオンという二つの台風はその後の日本の治水のあり方を大きく変えました。

 前回、一関のことばかり書きましたが、カスリーン台風は関東地方で大被害が出ています。利根川は9月16日深夜に埼玉県東村(現在の加須市)でまず決壊。現在の久喜市から幸手市に向かって濁流が南下します。荒川も熊谷市で堤防が決壊し、元荒川沿いに流下していきます。この二つの流れは合流し、ついに9月19日未明東京都に達し、足立、葛飾、江戸川の各区が水没してしまいました。

        埼玉県東村(現在の加須市)で決壊した利根川

          東京都葛飾区の浸水被害

 この氾濫流は、もともとの利根川の河道にそって流れています。利根川は古くは今の江戸川を通って東京湾に流入していたものを、江戸時代に鬼怒川と合流させ、銚子で太平洋に流入するように改修したのですが(利根川の東遷)、氾濫流は古い川の流れに沿って流れたのです。自然状態の古い河道が低い位置を流れていたので当然のことでした。

     利根川・荒川の決壊箇所

 この台風被害を教訓として、国はダムによる計画的な洪水調整に乗り出します。関東では「利根川改訂改修計画」が作成され、利根川水系8大ダムの建設が始まります。昨年の研修旅行で見学した八ッ場ダムも、もともとこの計画で建設されたものです。昨年の台風19号の豪雨時に、できたばかりで大量の雨水を貯留し、被害の軽減に役立ったといわれています。

 話は北上川に戻りますが、北上川でもカスリーン・アイオン台風の被害を教訓に、利根川と同様「北上川改訂改修計画」を定め、5大ダム(石淵ダム、田瀬ダム、湯田ダム、四十四田ダム、御所ダム)の建設を始めます。そしてさらに昭和47年から一関遊水地の建設が進められています。

     北上川五大ダム

 遊水地は、普段は水田として利用し、洪水の時に一時的に水をためて下流に流れる水の量を減らす施設です。

「一関遊水地は、地形的特徴をふまえ、遊水機能を最大限生かすことで北上川の洪水ピーク流量を低減し、下流部の氾濫を防止するとともに、狭窄部の拡幅や築堤等の改修負担を軽減する、水系全体の治水バランスを図った洪水調整施設である」(国交省岩手河川国道事務所ホームページより)

        平成14年7月水害時の一関遊水地

 これらの治水事業の結果、北上川の洪水は、狐禅寺で戦後第3位の水位を記録した平成14年7月水害、平成19年9月水害でそれぞれ死者・行方不明者2名を出していますが、カスリーン・アイオン台風のような甚大な被害は出ていません。また、昭和56年の台風15号は、ほぼアイオン台風に匹敵する雨量を記録したといわれていますが(ただし、気象情報の測定精度および測定地点数が時代によって変わっていますので、正確な比較はできません)狐禅寺での水位は12.51mと約2.5m低くなっています。これは上流域のダム群や一関遊水地の効果と考えられています。

 一時「コンクリートから人へ」といったコピーや「ダムによらない治水対策」という方向性が打ち出されました。この治水対策の方向性はこれからも検討が続くと思いますし、多様な治水のあり方を模索するのは当然のことです。平成29年の九州北部豪雨から西日本豪雨、台風19号、今年の九州豪雨と毎年激甚災害に指定されるような水害が発生しており、治水構造物によるハード対策だけでなく、避難方法、避難指示のあり方、降雨、河川水位のリアルタイムな情報収集と提供などのソフト面での治水対策が今後一層重要になってくるでしょう。しかし、ダムや遊水地を用いた戦後の治水事業が水害を防ぐために大きな力を発揮した、また現在も発揮していることを過少評価してはならないでしょう。

(写真はいずれも国土交通省関東地方整備局、東北地方整備局のホームページから引用しました。)