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入れ歯を無くしたはなし

2024年11月12日

 入れ歯を無くしてしまいました。まわりの人たちからは「入れ歯を無くす人なんているの!」とあきれられています。大きいグミをもらって噛んでいたら、入れ歯にくっついて噛みにくいので、外してそのへんに置いていたのですが、そこからどこに行ったのか見つからない。いくら探しても見つからない(認知症かも・・)。

 しかたないので歯医者に行って型を取ってもらい、出来上がるのを待っています。歯医者さんで「ティッシュにくるんでそのまま投げたんですか?」と聞かれて、かくかくしかじかと説明したら「ウフフ‥」と笑われてしまいました。私は割とよく噛んで食べるので、入れ歯がないとますます食事に時間がかかり困っています。早くできないかな。

 ところで入れ歯について、思想家で武道家の内田樹先生がこんなことを書いていました。

 歯科医によると、世の中には「入れ歯が合う人」と「入れ歯が合わない人」がいるそうです。

 合う人は作ってもらった入れ歯が一発で会う。合わない人はいくら作り直しても合わない。別に口蓋の形状に違いがあるわけではありません。自分の本来の歯があった時の感覚が「自然」で、それと違う状態は全部「不自然」だから嫌だ、という人は何度やっても合わない。それに対して「歯が無くなった」という現実を涼しく受け入れた人は、「入れ歯」という新しい状況にも自然に適応できる。多少の違和感は許容範囲。あとは自分で工夫して合わせればいい。

(中略)

 結婚も就職もある意味では「入れ歯」と同じです。

 自分自身は少しも変わらず自分のままでいて、それにぴったりあう「理想の配偶者」や「理想の職業」との出会いを待ち望んでいる人は、たぶん永遠に「ぴったりくるもの」に出会うことはできないでしょう。

 「どんな職業についても、そこそこ能力が発揮でき、そこそこ楽しそうな人」こそが成熟した働き手であり、キャリア教育はその育成こそ目指すべきだと僕は思っています。

(中略)

 仏文学者になることも、武道家になることも二十歳の時は全く予想していませんでした。でも、もののはずみでそれが職業になりました。

 なった以上、そこでベストを尽くす。そんなふうにして人間は「天職」を自作していくものではないかと思います。(「内田樹の研究室」2012年5月2日ブログより)

 内田先生は、仕事について、天職について繰り返し何度も書かれています。私はこの意見を読んで、これまでなんとなく感じていたことを明瞭に言い表してくれたことに本当に感動してしまいました。

 求人関係の会社の人によると、今では大学生はほぼ3年生のうちに内定が決まってしまうので、再来年卒の学生さんを採用するためには、今年の夏から採用活動を始めないとだめですよ、と言われます。一方で新卒社員の3割が入社3年以内に離職している、とも言われています。銀行の営業さんに話を聞くと、「まあそんなもんですね。それを見越して割増しで採用していますから」ということでした。

 それはそれ現実なんでしょうが、なんだかなあ、と思ってしまいます。また一方で、必要な採用人数の3割増しで人を採用できるような会社は、われわれのような小規模企業ではあまりないと思います。幸運なことに当社では採用は(小人数ずつですが)比較的順調に進んでいて、20代の若い社員が定着し、育ってきています。で、どうやって採用しているのか聞かれるのですが、ハローワークから来る人、求人媒体(マイナビとかリクナビとか)から来る人、縁故で来る人などなどいろいろです。

 入社した経緯でこんな面白い例があります。当社の社員がクレーンゲームで遊んでいた時、仲良くなったゲーム屋のアルバイトのお兄ちゃんが、「僕、もっとちゃんとした会社の社員になりたいんですよ」と話しかけてきたので、「じゃあうちに来たら」というわけで就職しました。その後、「僕の友達の弟が失業中で、連れてきてもいいですか」とさらにもう一人若者が入ってきました。二人とも一生懸命に働いていて、将来は当社の屋台骨を背負ってくれるだろうと期待しています。

 こうして入社してきた人たちが、この仕事に魅力を感じ、天職として作り上げていく―簡単なことではありませんが、「そこそこ楽しそうに」肩の力を抜いて働いていける会社にしたいものです。

 それにしても縁とは面白いものですよね。今まで何のつながりもなかった人が入ってきて、そこから長ければ30年から40年も一緒に働くことになります。これからは労働年齢がさらに長くなるはずですから、もしかすると50年も働くかもしれません。その長い年月の中で自分の技術を磨き、能力を開発しそれを次の世代に伝えていく、そんなサイクルが定着してくれれば最高です。

 ところで、出来上がってきた入れ歯はどうだったのか―もちろんバッチリあいました。歯医者さん、ありがとうございました。