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ダムと地質調査(5)ダムの地質調査

2021年03月19日

 ようやく地質調査の話になります。

 最初に行うのが既存の資料収集、地形図・空中写真の判読、そして現地の地表踏査です。地表踏査は予定地周辺を実際に歩いて沢や道路の切土部など表面に表れている岩盤(露頭と呼びます)を観察し、地層の傾斜と走行(岩盤がどの方向にどう傾いているか)、岩石の種類を調べ、広く地質図を作成します。この作業を行うのが「地質屋」と呼ばれる専門技術者です。山の中で腰にハンマーをぶら下げて、岩をコンコンたたいている人がいれば、まず間違いなく「地質屋」です。

 広い範囲の地形図・空中写真を判読により、断層や地すべりなどのダムを作るにあたっての障害になる要素を抽出していきます。そしてこれらの作業の後に、現地でボーリングや物理探査などの調査作業を行います。

 ボーリング調査は、ダムサイトおよびその周辺での調査とダム湖周辺での地すべり調査に分けられます。

 ダムサイトはまさにダムの堤体が建設される場所です。ダム軸(ダム堤体の中心線)だけでなく、その周辺をグリッドに切ってボーリングを行います。多くのボーリングコアを解析し、想定地層断面図や岩級区分図を作成します。これらの図面をもとにダムサイト周辺の全体的な地質構造の解明と、問題になる断層などを確認します。またボーリング孔内での載荷試験や室内岩石試験により岩盤の強度を確認し、ダム建設における問題点を抽出します。

 ボーリング掘削と同時に、岩盤透水試験(ルジオンテストと呼びます)を5mごとに行い、岩盤の透水性を調べます。パッカーと呼ばれるゴムチューブを孔内で膨らませ、5m区間で孔内を締め切り、約100mに相当する水圧をかけて水を圧入します。これはダムに水をためたときにどの程度水が漏れるかを調べる試験です。堤体完成後に、ダムと堤体を密着させることと岩盤からの水漏れを防ぐ、グラウチングと呼ばれる岩盤の亀裂をセメントで埋める作業を行います。ルジオンテストはこのグラウチングのための重要な資料となります。

              ルジオンテストの概念図

             計測中のルジオンテスト

 掘り終わったボーリング孔では、ボアホールスキャナーと呼ばれる、全周囲を見ることのできるカメラを入れて観察することが現在では一般的です。このカメラには磁石が装着され、亀裂や地層が東西南北のどの方向に向かっていくのかがわかり、ボーリングコアの連続性を正確に知ることができます。

 これらのボーリングの結果から、設計・施工上の問題があれば、追加調査がさらに行われます。仮にダムを作る場所として不適であると判断されれば、ダムサイトを変更して新たに調査する、あるいはダムサイトを放棄するということが実際に起こります。

 ダム湖周辺の地すべり調査も必須です。一般的に地すべりは、豪雨や雪解けによって地下水位が上昇することと、地震の強振動によって発生します。ダム湖に水をためることで必然的に地下水位は上昇するので、地層中に地すべりを起こしやすい粘土層などの素因があれば、地すべりが発生します。大規模な地滑りがダム湖の周辺で発生すれば、前回述べたバイオントダムのようにダム湖に津波が起き、最悪の場合堤体決壊の危険性があります。

 ダム湖周辺で地すべりの可能性がある地形を抽出し、ボーリング調査を行います。ボーリングコアで過去の地すべりの痕跡やすべり粘土の有無を確認し、歪計や傾斜計という変動を計測する計器をボーリング孔に設置し、継続的に変動の観測を行います。これらの結果から、地すべりの危険性の高い斜面には、変動しないように対策工を行ってから湛水(水をためる)を始めます。

 原石山は、ボーリング調査によって、ダム堤体のコンクリート骨材やフィルダムの材料となるロック材、コア材をどの程度採取できるかを調べます。その結果、ダムサイトから適当な距離で利用可能な岩石が採取できるかどうか、また運搬のしやすさ、環境への影響も考慮して原石山の位置を決定します。

 古くから使われている道路は川に沿っているのが一般的ですが、そうした旧道はダムが建設されればダム湖に沈みます。これに変わる付け替え道路はダム湖の水位より高い位置に作らなければならないため、谷を越え、山をぬけて作ることが多くなります。つまり、トンネルや橋梁、切土や盛土で道路を作っていきます。これらの工事にあたっても、それぞれの位置でボーリング、物理探査を用いた地質調査を行います。

 こうしたボーリングを中心にした地質調査を長い年月をかけて行い、安全で社会の礎となるように建設工事が進められていくのです。