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【流域治水】とは何か

2021年08月30日

「流域治水法案(特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法案)」は、とにかく長いし、何しろ法律用語で書かれているので、煩雑で分かりにくいです。で、国土交通省が発表している「概要」を紹介します。「概要」とはいえ多岐にわたる内容ですが、次の4点にまとめられています。

1.流域治水の計画・体制の強化

2.氾濫をできるだけ防ぐための対策

3.被害対象を減少させるための対策

4.被害の軽減・早期復旧・復興のための対策

 この4点の要点は次のようにまとめられると思います。

1.これまでの縦割り行政から、住民も含めた一つの流域における関係者が一堂に会した協議会を設立し、その協議の結果を対策計画に反映させること。ここでは、雨水貯留浸透対策、浸水エリアの土地利用の協議などが行われます。

2.堤防等のハード面は引き続き強化する。さらに、国交省・農水省・都道府県・発電会社がそれぞれに管理・運用しているダムを一元的に管理し、利水ダムの事前放流を拡大する。また、雨水の貯留対策、遊水機能を拡充整備する。また霞提の利用も考えられているようです。

3.危険性の高い土地から安全な土地への住居の誘導、移転の促進による土地利用の変更を行う。土地利用の規制、不動産のリスク評価に基づいた保険金の格差の設定などにより、氾濫の危険の高い土地から安全な土地への移動を進める。

4.ハザードマップの拡充や避難計画・訓練等のソフト面での対策を強化し、被害の軽減を図る。また、情報技術やUAVの活用による、よりリアルタイムで正確な河川の水位や氾濫の把握とそれに基づく避難情報を提供する。

 このように非常に広範囲の対策を網羅したものになっています。一部の報道で伝えられた「水害の危険性の高い土地の利用規制が眼目」とか「ハード対策からソフト対策への転換」といった限られた対策ではありません。

 前回、この「流域治水法案」は、土木学会の「提言」からスタートしたように書きましたが、実はそれ以前から基本的考え方は提唱されていました。

 2010年、九州福岡市での樋井川流域治水市民会議の結成。

 2015年、滋賀県での流域治水条例の制定。

 さらにさかのぼれば、1980年に神奈川県川崎市で「鶴見川の流域思考に基づく総合治水計画」が策定されています。2019年ラグビーワールドカップ時に、日産スタジアム周辺の多目的遊水地が機能して無事に開催されたことが記憶に新しいところですが、この遊水地は鶴見川総合治水計画で建設されたものでした。

 このように各地域で作られたきた「流域治水」の考え方が、この法律の成立によって表舞台に上がってきたと言えるでしょう。

 「流域治水」法は、明治43年(1910年)から100年間続いた治水の考え方を変え、次の100年の治水、国土のあり方を決める極めて重要なものです。私はこの考え方は正しいものだと思っていますが、課題は以下のことでしょう。

①国家百年の計であり、実行は長期にわたります。今後百年の間には、水害だけでなく東海地震や富士山の噴火などの地震・火山災害の発生も危険視されています。とりわけ東海・東南海地震は近い将来に必ず発生するとみられます。限られた財源の中で、優先順位をつけて実行していくことが迫られるでしょう。

②流域の中には様々な利害関係者がいます。縦割り行政を克服し、この関係者の利害を調整する制度、機関をしっかり作る必要があります。

③首都圏などの都市部への人口集中を防ぎ、コンパクトシティーを中核とした地方への人口・産業の分散をはかるという方針に本腰を入れていく必要があります。

④以上のことを実行するためには、ことあるごとに財政の健全化を主張する財務省を説得し、大胆な財政出動を実行しなければなりません。また一方で財政再建も重要であり、これをどう両立させていくのか、難しい課題といえます。

 この法律は成立したから効果が表れるというものではありません。しかし、これまでの治水の歩みがそうであったように、【流域治水】も長い時間はかかりますが着実に成果を出していくものと信じています。