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「地学を国民教養に!」

2022年03月23日

 これまでこのブログの中で、地形を知ることが防災の基礎になる、ということを何度か書いてきました。しかし私ごときが言ってもあまり説得力がないなあ、と感じてもいます。そこで今回は、その道の権威の方の文章を引用して、応援してもらおうと考えました。

 以下に掲載するのは、鹿児島大学名誉教授・岩松暉(あきら)先生が、2018年10月13日に、東京地学協会秋季講演会(熊本大学百周年記念館で開催)で行った特別講演「地学を国民教養に!」からの抜粋です。

 岩松先生は、鹿児島大学理学部で応用地質学、特に防災のための地質学の考え方を教えられてきました。また、日本のジオパークの生みの親でもあり、広く地学教育の必要性を訴えてきた方でもあります。学術論文だけなく、ユーモアのあるエッセイも数多く書かれていて、専門外の方でも親しみやすく読めると思います。何か「他人のふんどしで相撲を取る」ようで気が引けるのですが、ぜひご一読ください。

 なお、本文はhttp://www.geog.or.jp/files/autumn_h30_01a.pdf からご覧になれます。また岩松先生のホームページはhttp://fung.html.xdomain.jp/index.htmlです。

 今年7月の豪雨(平成30年西日本豪雨)では、西日本で甚大な被害が出ました。一番問題になったのは避難指示に従わず、犠牲になった方が多かったということでした。真備町では9割が自宅で亡くなっていたそうです。川が合流するところでは氾濫が起きやすいのは地学の常識で、真備町のハザードマップにもチャンと描かれています。しかも1976年の台風17号で水害があったのです。広島県では犠牲者の7割が土砂災害警戒区域内で亡くなっています。自分の住んでいる地域の地質地形的な特徴を知っておいていただきたいものです。(中略)

 豊後街道や律令時代の古代官道は、今回の地震(平成28年熊本地震)で被害を受けなかったそうです。熊本地震で土砂崩壊が多かったところは、立野の峡谷部と外輪山のカルデラ壁です。これら地学的に危険な場所を見事に避けているのです。また、カルデラ内では、湿地帯を避けて高燥な自然堤防や扇状地の微高地を利用しています。やはり昔の人はどこが危ないか知っていたのでしょう。防災対策も、現在のような力づくで抑え込む自然征服的やり方ではなく、自然の仕組みをうまく利用して軽くいなす方式でした。石塘(いしども)など加藤清正の治水工法はその典型です。(中略)

 以上、最近の自然災害の例を挙げましたが、災害に対処するには、孫子の兵法が参考になります。例の「彼を知り己を知れば百戦危うからず」です。今まで防災というと、斜面崩壊のメカニズムとか、地震とプレートテクトニクスとか、災害現象そのもの、いわゆるハザードの知識の啓発が主でした。災害予知も東海地震説以来、何時起きるのかという時間的予知ばかりが注目され、どこが危ないか、といった空間的予知が軽視されてきました。結果的に、災害は気象庁がやるもの、救助は消防と自衛隊と、御上任せの風潮を生んでしまいました。しかし、熊本市の人口74万人に対し、消防職員は810人です。火事にはこれで良いでしょうが、地震のような同時多発災害にはお手上げです。市民一人ひとりが、自分の住む地域の自然の成り立ちと自然の仕組みを理解して、自らどう対処するか日頃から考えておくことが大切です。地学の知識を身につけておかなければならないのです。