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「可能性」について

2021年05月24日

 小学校の卒業式の式辞で校長先生が「皆さんには無限の可能性があります」というようなことを言います。記憶が定かではありませんが、私も多分こんな祝辞を受けたのでしょう。この言葉を聞くと、それからの50年で「無限の可能性」を捨ててきた自分の来し方を思い出し、なんというか複雑な気持ちになってしまいます。

 2020年の小学生がなりたい職業は、男子では1位「スポーツ選手」、2位「警察官」、3位「運転手・運転士」。女子は第1位「ケーキ屋・パン屋」、2位「芸能人・歌手・モデル」、3位「看護師」だそうです。(クラリーノランドセルを購入した子供へのアンケートより)

 かわいらしいアンケート結果ですね。ちなみに私は、聞かれるたびに答えが違っていたような気がしますが、「ぼうけん家」と答えた記憶があります。「怪傑ハリマオ」とか「兼高かおるの世界の旅」とか見ていたせいでしょうか(古いなー!)。

 子供たちに「無限の可能性」があるのは間違いありません。しかし、無限の可能性があるということは、実はどの可能性もまだ実現していないということでもあります。可能性を選択していないからこそ、選択肢はたくさんあるのです。

 中学から高校、大学と成長していくにつれ、多くの可能性は捨てられ、就職となった時にひとつの可能性を選択することになります。仕事を選ぶということは、様々な可能性の中から実現可能なものを一つ選ぶ作業ということができます。

 もちろん就職時の選択がすべてではありません。別の可能性に賭けて転職することもあるでしょう。また芸能人にして作家兼画家というような多才な人もいます。すごいところではレオナルド・ダ・ビンチのような万能の天才と呼ばれるような人もいます。こうした多才な人はまれとしても、一つの職業を持ちながら、別の仕事で才能を発揮している人も多くいます。とはいえ、われわれのような凡人は、まずひとつの仕事を選択し、そこから始めていくのが一般的でしょう。

 元伊藤忠商事の社長で、のちに駐中国大使を務めた丹羽宇一郎さんが次のようなことを言っていました。

 もともと商事会社を希望していたわけではなく、希望する職種に落ちたために入社し、入社してからは鉄鋼関係などの華やかな分野ではなく、大豆の売買を担当させられいやでいやでしかたなかったそうです。入社2か月後には辞めようと思い相談したところ、まず3年間は辛抱しろと諭されたそうです(当たり前ですね)。面白くないけれど、何とか面白いところはないかとその分野を一生懸命勉強していると、少しずつ面白くなってきた。そしてやがて貿易のプロとして会社にとってかけがえのない存在になっていった・・。

 丹羽宇一郎さんは優秀な人ですが、ここでの話の肝(キモ)は「自分の仕事の面白さを探す」というところにあります。

 4月に多くの若者が新たに社会へと旅立ちました。その中には希望する職種、会社に入れず、残念ながら不本意な仕事に就いた人もいるでしょう。また、「無限の可能性」とはいっても現実には能力の差はあり、野球選手でもみんなイチロー選手や大谷選手のようになれるわけではありません。

 人の一生にとって仕事がすべてではありませんが、最も長い時間を費やすのが仕事であるのも事実です。自分の仕事に充実感を持てるかどうかは大きな意味を持ちます。大事なことはその仕事に面白さ、やりがいを感じることができるかどうかです。会社はそうした方向に導いていかなければなりませんが、最後はやはり本人の仕事に対する意識によって決まります。新しく社会に出た皆さんが、自分の仕事に面白さを見出せることを切に願っています。