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地震と活断層について(6)断層と地質調査

2022年01月20日

 断層に関連する地質調査は、大きく二つに分けられます。

①土木工事に関連して断層を調査する場合。

②活断層そのものを調査する場合。

 活動していない古い断層であっても、土木工事においては警戒しなければならない危険な要素になることが多いです。例えばダムを作る場合、断層の角度、傾斜によっては、ダム自身の巨大な荷重によって滑動する危険があります。また盛土、切土を伴う道路工事などでも、荷重の変化によって断層面に沿って崩壊する危険があります。

 断層面は一般的に粘土化しているので、水を通さない不透水層になります。そのため断層の両側で地下水位が違うことがよくあります。トンネル工事で断層を突破したときに、突発湧水が起きるのは、水位が高い方から低い方へ水が移動するからです。映画「黒部の太陽」で、大湧水の場面があるのはこのためです。

 このように古い断層は、活断層のように変位を起こすわけではありませんが、土木工事において大変危険な要素であり、地質調査でも十分注意しなければなりません。

 次に活断層そのものを調査する場合についてです。

 阪神大震災後、政府地震調査研究本部が作られ、日本全国で活断層調査が行われました。これはそれぞれの活断層の位置、長さ、活動履歴、活動頻度、変位量を調べ今後の活動予測、危険性を評価しようというものでした。その結果は各断層、断層帯ごとにまとめられ公表されています。

 活断層調査の流れは概ね以下のようになります。

①地形図と空中写真判読

 いつも出てくる予備調査の項目ですが、断層調査では特に重要な意味を持ちます。まず地形図から直線状の河谷とそれをつなぐ峠や鞍部などに注目します。これはリニアメントと呼ばれる地形構造です。この直線構造の中、あるいはその付近に活断層による地形の変位を示す地形があると、活断層の可能性が高いと判断されます。そして、空中写真の立体視で変位を確認します。これを変動地形学的手法と呼びます。

 変動を示す地形には、三角末端面、低断層崖、並行する河川の同じ方向への屈曲(オフセット)、地溝と断層盆地の形成、風隙など様々なものがあります。熟練した地形判読技術者はこうした地形から活断層による変位の程度、歴史を読み取ることができます。

 この活断層の地形判読については次回に述べます。

②地表踏査

 地表踏査では、露頭を観察して、岩石の種類、風化の程度、地層の走行・傾斜を調べていきます。通常の地表踏査は、これらの連続性に注目しますが、活断層調査では不連続性に注目すると言っていいでしょう。①であげた地形の変位と考えられる場所を、現地で確認していく作業となります。

③ボーリングおよびトレンチ掘削

 ボーリング調査は、採取したボーリングコアによって断層面、破砕帯を直接目で見て確認できる方法ですが、あくまで点で捕まえるため、断層の位置、走行・傾斜をある程度正確につかんでおかないと空振りに終わる場合があります。そこで行われるのが群列ボーリングという手法です。想定される断層線を横断して、数本のボーリングを行い、地層のずれを探し、ずれの大きい付近に断層があると想定します。これは比較的新しいほぼ水平な堆積層がある場合には大変有効です。

 断層本体をボーリングコアで確認するためには、斜めボーリングを一般的に用います。断層が傾斜しているので、それに直交するように掘削すると、断層面にぶつかる可能性が高いからです。

 こうして断層の位置を確定し、最後にトレンチを掘削して人の目で断層の状態を確認します。下の写真を見るとわかるとおり、トレンチの断面では堆積層の変位の様子がはっきりとわかります。

 地層中にある炭化物の放射性年代測定(一般的にはC14法をもちいます)をすると、各地層が堆積した年代がわかります。そこから変位を起こした年代、頻度等を推定します。

           産業総合研究所によるトレンチ調査

④地震波探査

 ①~③の調査方法では地表付近の情報しか得られず、地下深部まで続く活断層の位置はわかりません。そこで用いられるのが反射法地震探査です。これは地震波が地下の地層境界で反射して戻ってくることを利用して地下深部の構造を調べる方法です。

 地震波は海上では曳航するエアガンにより、地上ではバイブロサイス車と呼ばれる起震装置で発生させます。この方法は地下数千メートルまでの地層の変位を調べることが可能です。

         反射法地震探査による長町利府断層の想定断面図(地震研究推進本部より)

 こうした様々な調査方法による結果を総合して、活断層の評価を行います。これは産業総合研究所や大学などの各研究機関による学術的研究調査だけでなく、電力各社による産業目的の調査(最も多いのが、原子力発電所周辺の活断層調査でしょう)も、調査の手法は全く変わりありません。

 

 政府地震研究推進本部のホームページには、各断層・断層帯の評価が掲載されています。例えば宮城県にある長町―利府断層帯について次のように記載されています。

1.位置・形状:長さ21km~40km 一般走行N40°E

  ずれの方向と種類:北西側隆起の逆断層

2.過去の活動

 ・平均的なずれの速度:0.5~0.7m/千年(上下成分) (いわゆるB級断層)

 ・過去の活動時期:最新活動―約1万6千年より前 一つ前の活動―不明

 ・1回のずれ:2m程度以上

 ・平均的活動間隔:3千年程度以上

 ・断層帯全体が活動した場合、M7.0~7.5程度の地震が発生する可能性がある。

 概略ですがこうした内容が記載されています。この評価は、ここまで述べてきた様々な手法による調査の結果を総合して得られたものです。