TEL 022-372-7656

ボーリングの面白さ

2019年06月24日

 三省堂の大辞林によるとボーリングとは、
① 穴をあけること。
② 地質調査や地下資源の採取などのために,地中深くに細い穴をほること。試錐

(しすい)。試鑽(しさん)。
 と書いてあります。


 ボーリングといっても深度はいろいろです。海洋開発研究機構の海洋掘削船【ち

きゅう】は、水深数千メートルの海底から3,000mも掘削しますし、石油などの資

源開発でも、3,000m~6,000mの掘削はざらです。また一方で、ハンドオーガーの

ように人力で2~3m掘っておしまいという浅いものまであります。ちなみに最も深

く掘削したボーリングは、ロシアのコラ半島で地殻深部を調べる科学プロジェクト

として旧ソビエト連邦のチームが掘削した12,262mです。

 当社はボーリングを仕事にしていますが、入社したての人に仕事をしていて何が面

白いのか聞くと、よく「いろいろなところに行けて楽しい」というような返事が返

ってきます。実をいうと私も仕事を始めたばかりのころは全く同じでした。全国のい

ろいろな場所に呼ばれるので、観光で行くわけではありませんが、初めての土地

の風景やその地方それぞれの方言、文化に接することは、新鮮な感動がありました

そこからだんだんに仕事に慣れ、おぼえてくるとボーリング独特の面白さが感じら

れてきます。ボーリングの深度はさまざまだと書きましたが、共通しているのは目

に見えない地下を相手にしているということです。この「目に見えない」というこ

とが、ボーリングの面白さの根底にある、と感じています。
 当社のボーリングは土木工事、建築工事のための調査が主ですので、深度は概ね

300m~400m程度までで、地下の土や岩盤をなるべく地下にある状態に近いままで

採取することと、その孔を使った原位置試験をすることを主な目的としています。

この「地下にある状態に近いままで」ということがくせもので、経験と技術を要す

る仕事なのです。

 地面の下は本当に複雑にできています。数万年から数億年という長い年月で堆積

した土や岩盤が地球の力によって、くっついたり離れたり、折れ曲がったりずれた

り、さらにはその上に火山からの噴出物が重なったり、下からマグマが入ってきた

りと、実に様々な岩石から構成されています。したがって、ボーリングをするとき

には、その土や岩盤にあった道具(ツールスといいます)をとっかえひっかえ組み

合わせて掘削する必要があります。
 ここで問題になるのが、次にどんな岩石が出て来るのかわかっていればそれに合

わせたツールスの組み合わせを準備できるのですが、目に見えないためにわからな

いということです。土や岩盤の状態に合わないツールスや掘削水(泥水といいます

)を使用して掘削すると、採取した土や岩盤が乱れたり、採取できないということ

が起こり「地下にある状態に近いままで」採取するという目的を達成できないこと

になります。また、そうした掘削孔では、正確な原位置試験ができないことがあり

ます。
 では、どうやって地下の状態を知るのか?
アナログな方法ですが、ボーリングマシンとポンプの圧力ゲージの変化、エンジン

音、振動、掘削速度の変化といった地上のパラメーターの変化から土や岩盤の変化

を読み取ることで行います。しかし、そうしたパラメーターの変化の原因は一つで

はありません。水圧が上昇した、といっても、岩盤が軟質になったのか、掘削によ

って発生した細粒土が増えたのか、崩壊しているのか、ツールスが詰まったのかな

どなど様々な原因が考えられます。これらのパラメーターの変化を組み合わせ、地

下と孔の状態を推理しながら掘削していきます。
 この推理が正しければ、きれいなコア(棒状に採取した土や岩のサンプル)が採

取できるし、間違っていれば採取できないとなります(偶然取れてきた、というこ

ともあります)。ボーリングオペレーターは、見えない地下の土や岩盤と常に対話

しながら掘削しているといってもいいかもしれません。当社社員の畠山が「ボーリ

ングマイスター(匠)東北」に認定されたことをお知らせしましたが、ボーリング

マイスターは、この推理の名人といえるでしょう。
 人工的な均質なもの(たとえばコンクリート)を掘削するのであれば、こんな苦

労はありません。複雑な自然を相手にしているからこその苦労なのですが、苦労し

て良質なコアを採取し、目的を達成した時の満足感は何とも言い難いものがありま

す。
 ボーリングオペレーターは、職人でもあり技術者でもあります。マイスター兼エ

ンジニアですね。泥んこで真っ黒になって作業していて何が面白いんだろう、とは

たから見ると思われがちな仕事ですが、実はこうした深い面白さがあることを知っ

ていただければと思います。