「おじいさん」はランプ屋から本屋に商売を替えることができました。石炭労働者も石油プラントに限らずさまざまな職業に転進し、日本の戦後の高度経済成長を支えました。ところが現在のAI革命では事情が違います。車両の自動運転はそう遠からず実現するでしょう。運輸業では運転手不足が切実な問題になっているのでなおさらです。長距離の大型トラック運送では、拠点間の運転は自動化され、積み替えや個別配送のみが人力でとなるでしょうが、それすら将来的には自動化される可能性があります。
スーパーマーケットでも、今でもセルフレジがほとんどのところに設置されています。まだ慣れない人は有人レジに行っていますが、そうこうしているうちに有人レジはなくならないまでもごく少数になると思われます。
最近では証券会社がAIによる自動運用をせっせとコマーシャルしています。「×××(商品名)は、金融商品の選択から税金の最適化まで従来の資産運用のプロセスをすべて自動化。忙しく働く世代も手間なく資産運用を始められます」と言っていますが、証券マンはどうなるのでしょう?
「マルチモーダルAIの普及は、ビジネス環境において重要なトレンドになっています。マルチモーダルAIは、テキスト、画像、音声など複数のデータタイプを統合的に処理する能力を持ち、より複雑でリッチなアプリケーションの開発が可能になります」なんてことを言われたって、いったい何を言っているのかさっぱりわかりません。とにかく便利で高性能なAIなんだろうなあ・・、ということなんでしょう。
医師も、弁護士もAI化されるような話です。最近ではテレビのニュースもAIがアナウンスしています。最初の頃はなんとなく不自然だった発音も、今では全く自然な人の声に聞こえますよね。アナウンサーもいらなくなるのでしょうか。これまで就活で人気のあったホワイトカラー職こそ、もっともAIに向いているというのですから、いったいどんな職業が残っていくのでしょうか?
「サピエンス全史」で有名なイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、「21Lesson」
で次のように述べています。
AI革命とは、コンピューターが速く賢くなるだけの現象ではない。・・コンピューターは人間の行動を分析したり、人間の意思決定を予測したり、人間の運転者や銀行家や弁護士に取って代わったりするのがうまくなる。
過去に自動化の波が押し寄せたときには、人々はたいてい、それまでやっていた高度な技能を必要とせず、同じことを繰り返す仕事から、別のやはり単純な仕事に移ることができた。1920年に農業の機械化で解雇された農業労働者はトラクター製造工場で新しい仕事を見つけられた。1980年に失業した工場労働者はスーパーマーケットでレジ係として働くことができた。そのような転職が可能だったのは農場から工場へ、工場からスーパーマーケットへの移動には限られた訓練しか必要としなかったからだ。・・・
したがって人間のための新たな仕事が出てきても、新しい「無用者階級」の増大が起こるかもしれない。私たちは実際、高い失業率と熟練労働者不足という二重苦に陥りかねない。
というわけで、ベーシックインカム(最低所得保障)という考え方が出てきているのですが、何とも気鬱な社会が想像されます。
AIが人間に敵対し、支配するという「ターミネーター」のような世界が出現したり、人間がAIに政治や経済を委託することはないと思いますが(たぶん・・なんとなくですが)、多くの産業、業務に利用されていくでしょう。今後の社会は少子化とAI革命という二つの軸に沿って動いていくことは間違いありません。ランプを割って新しい商売をはじめられた「おじいさん」の牧歌的時代とは違います。
AI革命の波は私たち地質調査業、ボーリング業にもやがてやってくるでしょう。現在ではまだAIとは言えませんが、IT化は進んでいます。建設業ではすでにi-Constructionとして導入されています。現在建設されている秋田県の成瀬ダムでは自動化されたダンプカーやブルドーザーなどが堤体の盛り立てで活躍しています。測量、調査、設計でもBIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling 構造物の形状や構造を立体的に表現した3次元モデルを構築し、計画から設計、施工、維持管理の事業プロセスで共有し、一元的に管理する手法)の導入が進んでいます。
ボーリングでも、全自動ボーリングマシンの研究と開発が行われていますが、これには高い壁があります。その理由は、
①土や岩盤などの目に見えない地中の世界を相手にしているため、パラメーターが複雑で地中の現象を推測し、判断するには経験が必要とされる。
②現在のボーリングマシンは構造が単純で分解、運搬、組み立てが比較的容易にできるので山岳地でのボーリングも可能だが、重く、複雑な全自動ボーリングマシンでは搬入が困難になる。
③原理的にはAIによる全自動ボーリングマシンの開発は可能だが、バックホーなどの重機に比べボーリングマシンの汎用性は低く、開発のための資金を回収するには大変高価なものとなる。したがってボーリングの単価も高額になる。
④現在のボーリングは建築基礎調査をのぞいてオールコア採取が主流であり、マシンが完成された状態になるまではコアの流失が多くなると思われる。これを容認することができるか。
以上の理由により、全自動による高価で不満足な調査結果よりも、現在の比較的安価で信頼性の高いボーリングが継続される可能性が高いと思われます。とはいえ、これから人手不足が深刻になることは明らかであり、重い労働負荷を軽減していく取り組みもおこなわなければなりません。全自動とは言わなくても、一定の自動化の取り組みは必要です。
ボーリングに限らず、医療や介護、対人関係の仕事などAIの影響の及びにくい職種はあります。しかし、これまで述べてきたようなさまざまな仕事がAIに取って代わられると予想されています。AIの開発が、本当に人が住みよい社会になるために利用されていくのか、現在のAIの開発の方向性を見ると、疑わしいかぎりです。
効率化や生産性の向上という名のもとに、人が金魚のように扱われる社会になってしまうのではないか、と疑ってしまいたくなります。AIの開発が、働く人を失業に追い込むのではなく、働く人の利益になるように進めてもらいたいし、それは十分可能なものだと思います。(今回はオチがありません)